A boiled egg

ぼちぼちいこか

タコピーの原罪 感想

 少し前に、「タコピーの原罪」を読んだ。上下巻の全2巻。

 

 

 1話が公開されて話題になってた時に、1話だけ読んでた。1話読んだ時のあの衝撃は今でも忘れられない。

 

 この作品の衝撃ポイントとしては、「タコピーとしずか達との価値観の相違」、これに尽きるだろう。特に序盤はこの要素が、作品全体の雰囲気として気持ち悪さを最大限引き出していて、読者を物語に引き込む手段として効果的に働いていたように思う。

 タコピーは完全に価値観も常識も異なる、真の意味で「異文化」の生物なんだと痛感させられた。程度こそ違えど、同じ地球上の異文化間でも似たような事は起きているのは歴史を紐解けば明らかなので、この価値観の相違は至極当然と言えば当然ではあるのだが。

 

 タコピーがまりなを殺してしまい、そこからタイトル回収の展開はとても震えた。「タコピー」の「原罪」とはそういう事かと。最後まで読めば、原罪の意味も少し変わってくるが、「殺害及びその意思」が原罪に関与しているのは明らかであろう。そして、タコピーが殺人の重大性に途中まで気づかないのも、その罪深さを強調しているように思える。

 まりなの母が、偽まりなに対して急に敬語になるシーンがかなりキツかった。お腹を痛めてまで産んだ娘に対してこのような対応は、娘の皮を被った何かである事の確信及び拒絶反応であるのにほかならないだろう。

 

 他にも衝撃的なシーンはいくつもある。まりなを殺した後のしずかの変わり様もその1つだ。まりなが殺されて、罪悪感1つ抱いてないかのようなあの笑顔、本当に心の底からまりなを憎むあるいは嫌っていた「のみ」で、そこに一点の曇りもなかった事が伺える。正直この作品はしずかが1番やべーやつ。

 

 東くんのしずかへの依存度も相当キてたね。1番認めてもらいたい人から全く認めてもらえない辛さというのは割と分かるので、東くんのあの暴走はそれなりに納得してる。正直しずかさえいなければ東くんはそれなりに幸せになれると思うが。あいつのせいで全てのタガが外れちゃってる感は強いので。やはりしずかを殺すしか。

 

最後のオチについては、まあ落とし所としてはそこが丸いかなとは思うものの、ぶっちゃけそんな好きじゃない。まりなとしずかが仲良くしてるっていうのがまず解釈違い。

 しずかはともかくとして、まりなはしずかを拒絶し続けるだけの理由はあると思う。まあ悪いのはしずかではなくその親であるから、しずかを憎んでもしょうがない所はあるのだが、まりなの気持ちになってみれば、そんなもん関係ないと思う。

 しずかにしたって、相当なイジメをまりなから受けてるわけだから、今更仲直りというのも変な話だろう。

 とにかく、そんな2人が仲良くしてる図というのが私は全く想像できないからこそ、この結末は腑に落ちないのである。2人の間のわだかまりが完全に無くなったわけではなさそうなのは分かるが、それでもそれなりに仲良くやってるのがなんかなあ。

 まあこの物語のテーマとして、タコピーが散々言ってた「みんな仲良く」とか「みんな幸せになろう」みたいな事があるのだろうから、それを踏まえればまあ良しとしようかなあとは考えるのだが。

 

 あと、最後タコピーが犠牲になってカメラを1回だけ起動させられる展開も、安っぽくてあんま好きじゃない。自己犠牲でなんでも解決できると思ってるご都合主義感がひしひしと伝わってくる。自己犠牲は嫌いじゃないが、それで解決できない事だって往々にしてあるんだよって言いたくなる。まあハッピー道具っていうファンタジー要素の前にはこんな主張は無力か。

 ハッピー道具で今思い出したけど、1話でしずかがハッピー道具を自殺の手段として使ったのは衝撃的だったね。幸せの為に使うファンタジーな物を、その対局に位置する死への現実的な手段として使うその歪さよ。

 

 

 とまあ色々書いたが、この作品を通して私が1番思った事は、「最後は2人仲良くなんないで欲しかった」って事である。片方がもう片方殺してしまってっていう感じか、あるいは2人とも一生真の意味での犬猿の仲でいて欲しかったなあ。ミスミソウみたいな終わり方が1番好き。

 まあ途中の狂ってる加減は最高に気持ちいいので、そこは大いに評価している。