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ぼちぼちいこか

NOPE/ノープ 感想

 「ゲット・アウト」や「アス」の監督ジョーダン・ピールの監督作品「NOPE/ノープ」を観てきた。公開日2022年8月26日(金)(日本)。ネタバレ注意

 

 

 

あらすじ(公式サイトより)

舞台は南カリフォルニア、ロサンゼルス近郊にある牧場。亡き父から、この牧場を受け継いだOJは、半年前の父の事故死をいまだに信じられずにいた。形式上は、飛行機の部品の落下による衝突死とされている。しかし、そんな“最悪の奇跡”が起こり得るのだろうか? 何より、OJはこの事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいた。牧場の共同経営者である妹エメラルドはこの飛行物体を撮影して、“バズり動画”を世に放つことを思いつく。やがて起こる怪奇現象の連続。それらは真の“最悪の奇跡”の到来の序章に過ぎなかった……。

ABOUT THE MOVIE|映画『NOPE/ノープ』公式サイト (nope-movie.jp)

 

前半はホラー映画、後半はSF映画

 前半は、「正体不明のモンスターが身近に潜んでいる」というホラーを主体として物語が進行している。よく分からないけど突然竜巻が起こるだとか、空から弾丸のように物が落ちてくるだとか、急に一瞬だけ電気が落ちるだとか。何か異常なことが確かに目の前で起こっているのだけど、その原因は分からないというのはやはり恐怖を助長させてくれる。

 後半に行くに従って、モンスターの正体も大体分かってきて、そのモンスターをどうやって追い払うか/倒すかに展開がシフトしていってる。前半から後半への内容の変化の仕方が、まんま「宇宙戦争」や「ゴジラ」みたいなパニック系エイリアン・モンスター映画の構成だね。

 エイリアン、つまりはここで言うところのGジャンの性質として「自身の周囲の電気を完全に止める」というのがあったけど、それが前半のホラーと後半の緊迫のアクションシーンの両方それぞれ上手く機能していて、尚且つGジャンのその性質の印象が変化していったのが、エンタメとして面白かった。前半は「未知で恐怖の現象」、後半は「敵がすぐそこにいることを知らせる、緊張感のあるアラート」と言えばいいだろうか。電気的な移動と連絡が完全に遮断されて孤立し無音になるために、恐怖や緊張が加速されるのは、Gジャンの設定と演出を考えたスタッフの賜物だろう。

 

エイリアンの正体・弱点を見破る人物が「調教師」であるという特徴

 この手のエイリアンものって科学者が正体や弱点を見つけて倒すための作戦を立てることが多いけど、この映画では科学者の代わりに馬の調教師がその役割を担っているのが面白かった、というのは一緒に観た友人の感想である。私は今まで「どんな肩書きを持った人物がエイリアン打倒の糸口になるか」というのをあまり考えて見たことがなかったので、興味深い視点だなと思った。

 「科学」は誰にとっても論理的に納得できるように事象を説明する/しようと目指す学問体系だと私は考えているので、エイリアンの正体や弱点を説明する立場である「科学者」はその説明に説得力を持たせる上で都合のいい役割である。

 しかし、この映画では「調教師」がその役割を担っている。調教師は生き物についてよく理解している。そしてエイリアンも、姿形こそおぞましいが、ある意味で生き物であることに変わりはない。従って、調教師がエイリアンの正体や弱点を発見する展開にも確かな説得力が生まれるわけである。

 物語の中で、未知を解明する人物が必ずしも科学者である必要はなく、ある分野に特化した科学者でない人がその分野から解明するという展開でも、全然ありなのである。科学以外の特殊な分野に特化してる分、むしろそっちの展開の方が説得力増す気がする。でも身も蓋もない話、自然を扱うどの分野も科学の上に成り立ってるから、全部科学者なわけで結局魅せ方の問題なんだけど。

 兎にも角にも、他のB級パニック映画だと「なんか頭いい科学者が解決した」みたいなところを、科学者でない人物が解決したという展開が新鮮で面白かった。

 余談だけど、Gジャンの造形ってやっぱエヴァが参考にされてたのね。最初の形態はサハクィエルっぽいし最終形態は新劇場版の方のバルディエルみたいな感じだった。あと「AKIRA」のオマージュもあったな。

 

「ゴーディの誕生日」事件の意味

 これについては正直最後まで意味が分からなかったのだが、一緒に観た友人曰く「凶暴な動物と目を合わせてはいけない」ということらしい。ジュープはテーブルの薄い布に守られて、実質目を合わせていなかったから助かったと考えれば、確かにその解釈は合ってるかもしれない。ただ、その場合ゴーディはジュープの目を見ていないにもかかわらず、グータッチをしようとした点が謎にはなってしまう。

 他にもネットで色々このシーンの考察を見てみたら、「目を合わせなかったから」という根拠を「ジュープは直立した靴に気を取られていたから」としているものもあったし、単に「野生生物を舐めてると痛い目にあうぞ」とか、「この映画は『見世物』をテーマにしていて、ゴーディの誕生日・世界初の映画・妹が撮ろうとしたUFO映像・ジュープのパークのショー、これらは全部見世物だよね」と全体のテーマとメッセージについて考察している人もいた。あとは「見世物を『見る人』と『見られる人』の差異と差別」もあると思うし、そこにほんのわずかに黒人差別も含まれているように感じる。

 

 このシーンの考察については、一つ私が面白いなと思った他所のブログがあったので貼っておく。途中で出てくる聖書の引用の考察についてもされている。

【ネタバレ厳禁】映画『NOPE』を考察する【視線にまつわる物語】|ヴィクトリー下村|note

 

Gジャンと対峙するシーンの迫力と緊迫感

 もうこれは実際に映画を観れば分かるだろって感じだが、とにかく緊張と緩和のバランスが素晴らしい塩梅になっていた。電気機器が動かなくなって静かになる緊張から、目の前にGジャンが現れる緩和、鳥肌立ちまくりだし脳汁ドバドバ出る。OJが馬で駆ける後ろから追ってくるシーンが一番迫力あった。最後Gジャンが、雲に浮かぶデカい風船人形食らうシーンも幻想的で良かった。マジでIMAXで観たかった。

 あと、ホルストが「不可能を撮る」って言って、カメラ持ってGジャンに食われに行ったの滅茶苦茶かっこよかったなあ。あれでフィルムダメになってたら無駄死にだから泣くw

 終盤のアクションの爽快感とすごくスッキリ・スカッとする終わり方で、前半ホラーやってたのを完全に忘れるほどであった。この監督の映画は他に「ゲット・アウト」を観たことがあるのだが、それは終始サイコホラーやスリラーという感じで、それと比べるとかなり明るくなったなあと思った。