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ぼちぼちいこか

夏へのトンネル、さよならの出口 感想

 「夏へのトンネル、さよならの出口」を観た。公開日2022年9月9日。ラノベが原作で、原作出たころから気になってた作品。「面白そうだないつか読みたいなー」「おっ、アニメ映画化するのかー公開日までに原作読んどきたいなー」「あれ?原作読んでないけどもう公開日じゃん」ってな感じで、原作は未読で映画の方を観た。あと伸ばしにし続けるそういうところだぞお前。

 

 

 

あらすじ

 子供の頃妹を亡くし、母親は家を出ていき、酒に溺れる父親と二人暮らしをしている塔野カオル。祖父に憧れ漫画家を目指すが、両親に「頭を冷やせ」と言われ田舎の学校に転校させられた花城あんず。二人は「なんでも願いが叶えられる代わりに、100年歳をとってしまう」という噂の、通称「ウラシマトンネル」を見つける。塔野は亡くした妹を取り戻したい、花城は名を残せるような漫画を描ける特別な才能が欲しい。二人は協力関係を結び、ウラシマトンネルについて探っていく。

 

 

 

 

感想(ネタバレ有)

 

 

塔野と花城の出会い

 塔野が通っている学校に花城が転校してきて、転校初日の前に出会っていたという、ありがちな出会いである。オーソドックスで良いとも言えるが、この辺のくだりもうちょっとひねって欲しいよなあと常々思う。トンネル入り決行直前とか13年後で、出会いのシーンを彷彿とさせた展開自体は好きだったので、その大元がもっと攻めた感じになればなあと。

 塔野は苦しい現実と悲しい過去にじっと耐え続けているようなキャラクターだと感じた。気に食わない女子をとりあえず殴るおもしれー女花城が、塔野とは対照的に現状の打開の象徴として表現されているように思う。相反する二つが出会うことによって、物語が動き出す予感を感じさせているのではないだろうか。

 花城の美しい黒髪ロングと不敵な眼差しすごい素敵ですき。一見清楚なだけに見えるけど、内に熱い想いを秘めたキャラっていいよね。まあ何と言っても黒髪紫眼のビジュアルが私にはとてつもなく好みでたまらなかったのだが。塔野に覆いかぶさられた花城の「どいてもらえる」は完全に綾波レイだった。その後の塔野の慌て方とかもう完全に碇シンジだった。

 

ウラシマトンネル探索の日々

 トンネルの内と外で時間の流れ方が違うことに気づいた二人は、具体的に何秒の差があるのか、電話やメールの送受信は可能なのか等について探っていく。電話やメールのやり取りがスマホではなくガラケーで行われてたのが、印象的だった。途中で出てきたカレンダーが2005年だったので、なるほど確かに。初代iPhoneの発売は2007年である。私も高校の時はガラケーだったがほとんど使ってなかったので、小学生の時親のガラケーミニゲームやってぐらいの馴染みしかないが、文字入力の時に携帯が小刻みに動くのとか、充電端子が今より一回り大きかったり、充電端子雌側の本体はカバーで覆われてたり、花城のはスライド式だったりと数え上げたらキリがないが、とにかく懐かしさで時代描写の方に気がとられる場面がいくつかあった。喫茶店のインベーダゲームのテーブルとかもそうだよね。あれの実物私は見たことないんだけど。

 そんなこんなで色々トンネルを検証していく日々の中で、二人の距離が縮まり、いつしか「好き」の感情が芽生えてた、というところはもはや詳しく説明するまでもないだろう。そういう展開いっぱい見た。ただ、恋愛描写はしつこくなくむしろ若干ドライ強めであったので、キツさは感じなかった。あくまで利害関係という立場を正しくとっていたからであろう。また、その適切な「緊張」があったからこそ、花火大会や13年後でその想いが爆発する時の美しさがあるとも言える。ラストのメールで告白するシーンとか終盤でコロッと妹から花城に行っちゃうのは個人的に多少のキツさベタさを感じたのだが。

 

二人が叶えたいそれぞれの願い

 塔野が叶えたいのは「死んだ妹を取り戻す」、花城は「名を残せるような特別な漫画の才能」であった。水族館デートで花城は、塔野は普通の人とは違う世界の見方をしていると気づき、それを見れば特別な才能が手に入ると考えた。塔野を押し倒して「あなたになって、あなたの世界を見たい」(みたいなセリフだった気がするけど覚えてない)って言う場面はもはや「あなたとセックスしたい」って言ってるようなもんだろ。曲解オタクキツいですねハイ。

 自分には才能がないと言う花城に対して、そんなことはないと言う塔野だが、自分の価値観や才能の自己評価なんてそんなもんだと思う。自己評価高いのはナルシストぐらいのものだろう。また、塔野自身も自分の世界の見え方を「味気のないもの」と花城に言っていることから、彼も自己評価が低いことが窺える。塔野も花城も自分を平凡でつまらないと低い自己評価している似たもの同士なのかもしれない。だからこそ二人は惹かれ合ったのだろうか。

 塔野が花城に「ただ才能が見つけられてないだけだ」と言うが、その通りだと思う。花城と塔野の価値観が違うように全ての他者も価値観が違うのだから、自分の価値観ではそれは才能でなくとも他者の価値観にとっては才能である可能性がある。それがただ単に漫画家や漫画家志望者の数の暴力で埋もれていて、発見されていないだけなのである。数の暴力で埋められてしまっている状況の中で発見してもらうためには、発見しようとしている場に自ら赴く必要がある。それが彼女が供養のつもりでやった、出版社への投稿だったわけである。「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」である。

 

「帰ってこれないウラシマトンネルへの旅」決行

 ウラシマトンネルに本格的に入って願いを叶えるという計画は、当初塔野と花城の二人で行われるはずだったが、塔野がその約束を破って塔野一人で入っていくことになる。これには、①「ウラシマトンネルは「願いを叶える」のではなく「失ったものを取り戻す」場所である」ことに気づき、失ったわけではない花城の才能はトンネルでは得られないからであるのと、②「担当編集がついたのなら、その担当とちゃんと現実で漫画を描いて欲しい」という想いの二つがあったからである(②は半分妄想かもしれない)。残された花城はたまったものではなかったが、塔野なりに花城を想ってのことだったのだろう。このことから、タイトルにある「さよなら」は「2005年のあの夏へのさよなら」「花城へのさよなら」の二つの意味があると考えている。

 トンネルの①の性質の通り、トンネル内では彼の失くした音楽プレイヤーやっぱりこいつますます碇シンジに見えてくるや、幸せな家族像(再婚相手との家族像だったので嫌悪感を示していたが)があった。最後は妹を見つけ、全てを忘れかつての日々(しかし当然幻想)に溺れていくことになる。回想シーンで常々思ってたけど、妹めちゃくちゃ可愛いよね。夏の幼女のノースリーブ短パンの露出度高い健康的な姿たまりませんなあ。

 一瞬は幻想に溺れる塔野だったが、(理由は説明されてないが)トンネルの外部から花城のメールが何年分も届いたり、妹の「お兄ちゃんは私以外の人も好きになって欲しい」「私とお兄ちゃんとお兄ちゃんの恋人と三人で笑顔に」の言葉で、元の世界に戻ることを決意することになる。「三人で笑顔に」は、妹はもう死んでいるので言葉通りの意味というよりか「兄と彼女の二人で仏壇に手を合わせてね」「でも昔のことにいつまでも囚われないでね」というニュアンスだと思う。花城のメールが届いた理由としては、まあ愛の力とかなんじゃないか?知らんけど。ここら辺の展開は、すぐに妹から花城に想いを戻しちゃうのも含めて、都合がちょっと良すぎるなーと思ってる。まあ深く考えたら負けだし意味のないことだね。13年に渡って募っていた想いのメールが一気に届くという情緒自体は非常に好き。「宇宙よりも遠い場所」にも似たようなシーンあったな。あっちの方はこの映画のメールシーンとは比にならないぐらい目と鼻から汗出まくったなあ。別の作品の話しだしてすまん。

 最後は歳をとった花城と13年前そのままの塔野が幸せなキスをして終了。歳の差カップルいいゾ〜コレ。花城が見た目言うほど老けてないってのが、万人受け狙ってるって感じだけど、まあ13年だしそんなもんか。トンネル内で10秒、現実では約6時間のキスとかマジでエロすぎるだろ。やっぱりセックス(ry

 ラストの、塔野に返しそびれてさび付いた傘を開くシーンは、「(さび付いた傘のように)止まっていた二人の関係や想いが(傘を開くように)動き出し広がっていく」様を表現しているんじゃないかなって私は思っている。

 その後の塔野家どうなってるんかね。失踪した息子は死亡扱いにしてそのまま再婚してたとかだったら、父親かなりのクソ野郎になるな。花城家は、娘は失踪してるわけじゃないからなんやかんやで、絶縁にしろなんにしろ家族関係はっきりさせてそうだから心配ないと思う。

 

 ちょっとだけ他所の感想ブログ見てみたら、原作と違って川崎(序盤で殴られてた女子)の描写が全然無いとのことだったので、やっぱり原作読んだ方がいいんすかね。

 

個人的に一番印象に残ったシーン

 最初の出会いを再現するように塔野が花城にひまわりを渡すシーンで、渡した直後に二人の背後が映って一面のひまわり畑(のようなもの)が画面いっぱいに広がったところが印象的だった。二人が出会ってトンネルを探索した一回きりの儚い夏の、その盛夏の只中にいるというのを見せつけられた感覚があった。

 ちなみに傘を渡すシーンとひまわりを渡すシーンとで、塔野と花城の手の上下が変わってるが、これは二人の関係性の変化を表しているのかね?深読みのしすぎかもしれないけど。

 

 

 

 

まとめ

 恋愛描写はそこまでしつこくキツくなく(部分的には少しだけキツかったが誤差の範囲内)、設定やストーリーは特に終盤が若干ご都合感強めではあるものの恋愛話でもあることを考えれば許容範囲。SF×恋愛のご都合主義って突拍子もない作品がいくつかあるが(今私が思い浮かべたものだと「天気の子」とか)、その中でもわりかし許せるレベル。物語のその後の塔野の家族について色々疑問点はあるが、全体としてそれなりに纏まっていて観やすいなと思った。

 花城と妹がとにかく可愛かったです。酒飲みながら感想話したらこれしか言わなくなる気がする。