A boiled egg

ぼちぼちいこか

「結城友奈は勇者である 勇者史外典 下巻」 感想

 「結城友奈は勇者である」のスピンオフの一つの「勇者史外典」の下巻を読んだ。

 上巻読んでから下巻読み終わるまでに、1年以上も積読してたらしい。

 

芙蓉友奈は勇者でない 後半

 神世紀30年、なんとかして神樹の壁を越えたい芙蓉の姿を見て、それまで否定的だった柚木の方が逆にその気になってしまう。ロッククライミングで神樹の壁をよじ登るという、勇者ならともかく一般的な体力のJCには到底できるとは思えない方法を敢行する始末。まあ、芙蓉が筏や丸太船で海を渡ろうとしてたのも、だいぶ無謀なのだが。

 訳あって、そしてなんやかんやで乃木若葉と上里ひなたと共に、壁の外を見るという目標は達成する。神世紀30年ということは、元年に中学生だった乃木や上里は40半ばになっているという事になるが、乃木の挿絵がどう考えても40代の風貌じゃないんだよなあ……確かに、20後半~30前半の見た目の40代、50代の人ってたまにいるけども……

 「私は『友奈』という名前のくせに、確かな『力』を持っていない。せいぜい、色んな事が人より多少上手くできるだけだ」という柚木のこれまでの悩みに対して、上里が「高嶋友奈も『無力』な人間であり、その無力さに抗い続けた人間だ」と言っていたのも印象的であった。

 「友奈」という名前には、「高嶋友奈のように何か特別な『力』を持っている」のではなく、「『力』が無くともそれに抗い、自らの願いのために奮闘する」という意味が込められている、という原作者の意図があるのだと思う。赤子の時に逆手を打つというのも、「何かに抗う」を体現していると考えれば整合的である。

 

丸久美子は巫女でない

 時は西暦2015年7月30日、バーテックスによる最初の大災害が起こった日に、覚醒した勇者の一人に「高嶋友奈」がいたことは、ゆゆゆシリーズを追っている人からすれば周知の事実であるが、彼女が如何にして覚醒し四国に渡ったかは詳細に描かれてこなかった。本作では、「烏丸久美子」という被災当時大学院生だった人物を主な語り部として、四国にたどり着くまでの出来事が描かれている。大災害真っ只中で、一般人が化け物に襲われるシーンもあるので、まあ多少はグロい。上半身と下半身が引き裂かれてる程度にはグロい。文章メインなのが唯一の救い。

 ちなみに烏丸の大社での立場は「高嶋友奈を見出した巫女」であり、それから大災害の10数年後には神官として身を置いている。しかし、烏丸は巫女でもなんでもなく、実際に高嶋を見出したのは「横手茉莉」という別の人物である、という点も本作において重要なポイントである。なぜ横手が大社に入らなかったのか、なぜ烏丸は代わりに巫女として大社に入ったのか、その理由が浮き彫りにさせるのは、彼女らが何をもってして「幸福な人生」と言うのかという人間性の違いである。

 その食い違いによって、四国へ向かう道中彼女らの間で様々な問題が発生するのだが、正直なところ私は、烏丸側に大いに賛同できる感性を持ち合わせてしまっている。烏丸は、謎の化け物に追われて気が狂いそうになっている人と、そうでない人との争いを楽しそうに眺めているきらいがある。私も、ゾンビやエイリアン系の作品を、ショッピングモールに立てこもった人々が狂っていく様を非常に好ましく思いながら観る傾向にある。どちらも「狂っていく人間の愚かな争いを快楽的に眺める」という点で同じである。

 私はあくまで「フィクションとして」烏丸のような人物に共感できる、にとどまっているが、もしも、本当にもしも同じような状況に陥った際に、烏丸のような行動をとるかは分からない。が、そのように行動している自分の姿は容易に想像できる。

 烏丸と横手の人間性以外にも、高嶋友奈の人間性についても深く描写されている。正式な勇者になってからの彼女の想いというのは「乃木若葉は勇者である」でも語られているところだが、その前の彼女の想いが本作で語られることにより、その人間性についてより深みが増している。

 結局のところ、烏丸も横手も高嶋もその人間性は「異常」である。これは、「謎の化け物が襲ってくる異常事態において、「普通」の世界に戻ることを執拗に望む」のが「異常」であることも含む。本作では「じゃあ「普通」ってなに?その定義は?」といった本質的な問いかけまでには至っていないが、彼女らの異常さの根源を究極的に突き詰める際には、立ちはだかる問題になるのかもしれない。

 

 最後しれっと、横手に娘がいることが判明する。しかし父親はその場面では出てきてない。百合豚に配慮した結果なんだろうが、そういうところでは男性の存在は普通に必要だと思うぞ…… 「神世紀の始まりから綿々と紡がれてきた、人類復興の希望の物語」がこのゆゆゆシリーズなのだから、R指定にならない程度にちょびっと入れるぐらいはしてほしい。「クローン技術が確立した」とか「人工授精での妊娠が当たり前になった」なら分かるが、シリーズのこれまでを見るに、そういういうわけでもなさそうだからなあ……

 乃木若葉の子孫も、旦那は出さずにしれっと「これが若葉の娘です」って感じで登場させたりするんだろうか。

 

おわりに

 これまでの、「勇者」の物語を主軸とした「勇者であるシリーズ」とは打って変わって、その周囲の巫女やその関係者、果てにはただの一般人に主軸が置かれた「勇者史外典」は、神世紀の歴史を紐解くのに、新たな視点を与えてくれたように思う。

 まさに、「勇者本人様たちの記録ではないが、それらを語る上で外せない記録」としての「外典」と言えるだろう。大赦によって厳重に検閲された出来事が描かれた「偽典」も出してほしいと思ったりする。

 あと、勇者や巫女らの全家系図とか見てみたかったりもする。どの家がどの時代まで続いてて、どの家がどの時代から現れたのかとかを、歴史的な情報として純粋に知りたい。まだ設定考えてなかったら、早く考えて書籍化しろください。

 

 ゆゆゆいのCS版、全8巻セットで草。特典付きで揃えたら83,600円で大草原。特典なしの単巻でも、1巻あたりの値段がフルプライス帯で森。ギャルゲの全8シリーズを、各巻ともフルプライス帯のボリュームで、同時発売します!って言ってるのと同義だからね???

結城友奈は勇者である 花結いのきらめき|TOP|公式サイト (entergram.co.jp)

 2、3万ぐらい、高くても4万ぐらいだと思ってたから腰抜かした。まあ、ソシャゲ時代に課金しなかった / 全然プレイしなかった分、頑張って金捻り出してプレイするが……