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ぼちぼちいこか

沈黙のパレード 感想

 ガリレオシリーズの9年ぶりの新作「沈黙のパレード」を観てきた。公開日2022年9月16日(金)。ガリレオシリーズは、当時一応全部見たはず(特番系は定かではない)だが、中身はマジでほとんど覚えてない。ドラマの聖女の救済編で犯人の奥さんがプランターの植物に毒入りの水与えてたなーとか、容疑者Xの献身のラストシーンで犯人が泣き崩れる迫真の演技あったなーとか、真夏の方程式ペットボトルロケット飛ばしてたなーとかしか覚えてない。まあ常任キャラの設定覚えてなくても、純粋に推理ものとして楽しめるやろ!


映画『沈黙のパレード』公式サイト (galileo-movie3.jp)

 

 

 

 

 

あらすじ(公式サイトより)

天才物理学者・湯川学の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫が相談に訪れる。
行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。
内海によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平がかつて担当した少女殺害事件で、完全黙秘をつらぬき、無罪となった男・蓮沼寛一。
蓮沼は今回も同様に完全黙秘を遂行し、証拠不十分で釈放され、女子学生の住んでいた町に戻って来た。
町全体を覆う憎悪の空気…。 そして、夏祭りのパレード当日、事件が起こる。蓮沼が殺された。
女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人…全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった。そして、全員が沈黙する。
湯川、内海、草薙にまたもふりかかる、超難問...! 果たして、湯川は【沈黙】に隠された【真実】を解き明かせるのか...!?

 

 

 

感想(ネタバレ有)

 

 

行方不明の女子学生の発見、及び容疑者の不起訴

 東京のある町で3年前に突如として行方が分からなくなっていた並木佐織が、静岡県牧之原市で発生した火災で遺体で発見される。佐織の殺人の容疑として浮上したのは、火災の発生した家が実家である蓮沼寛一

 彼は15年前の少女行方不明事件でも関与が疑われていたが、彼の一貫した沈黙により無罪に終わっている。この時点で、蓮沼お前誘拐の常習犯かよと並々ならぬ恐怖を覚えた。

 実際は佐織の誘拐には新倉の妻が一枚噛んでいたわけで、それを利用して彼女から金を定期的に脅し取っていた。その際新倉妻は自分が佐織を殺したと思っていたため脅迫に応じ続けていたのだが、蓮沼が殺害と死体損壊・遺棄を行っていたのは終盤ではっきり明かされる事になる。15年前の少女の件の真相については作中であまり語られていないが、恐らく今回の佐織と同じやり口だったんじゃないかなと想像している。

 物語の序盤の時点ではその真実は明かされていないため、蓮沼が単独で誘拐及び殺害を行ったとみて取り調べが行われるが、ここでも彼は沈黙を貫き通し不起訴で終わり釈放されることになる。その後蓮沼は佐織の実家の食堂に飄々と顔を出すわけだが、誰だってそんなことされたらブチギレるし殺したいと思うのもしょうがないだろう。私だったら殺すまではいかないにしても、100回はぶん殴ってる。あとタバコの吸い殻ポイ捨てすんな。

 

蓮沼の死の捜査、周辺人物の「沈黙」

 年に一度の町のパレードの日、その蓮沼が死んだ。容疑者として挙げられたのは、佐織の遺族や関係者達。蓮沼が彼らから恨みを買っていたのは言うまでもないので、その線に行くのは妥当であろう。

 まず死因については、絞殺や争った形跡がないことから、薬殺あるいは密閉空間(ここでは蓮沼の寝床)に閉じ込めて何らかのガスを吸入させた窒息死と推定され、後に睡眠薬で眠らせた後の後者であることが判明する。その際にヘリウムガスではなく液体窒素であることを確かめるために色々検証を行っていた(特に布団の水分量に注目して)が、ヘリウムと窒素で結果変わるん?無知だから知らんけど。気体の種類そのものってよりか、液体窒素が気化する時に周りの水蒸気が液化することがポイントなんかな、やっぱり知らんけど。この検証シーンでガリレオシリーズのテーマ曲が流れて「うおおおお」ってなったのは流石に私だけではないはず。使いどころが分かってますねえ!

 ここで液体窒素の提供元とパレード当日の液体窒素の現場までの移動経路とそれを行った人物が洗い出される。ここで佐織の関係者が次々に浮上してくるが、彼らは沈黙する。「沈黙のパレード」のタイトルは、「様々な容疑者の沈黙によりパレードのようにカオスに、即ち難解になっていく事件」という意味が込められているのではないかなと思っている。

 この沈黙は、最終的に高垣の自白を皮切りに様々なことが明らかになっていく。高垣の自白の時の草薙の「真実に辿り着けたけど、そうであって欲しくなかった」という顔が印象的である。できるだけ遺族を擁護したいという思いと、刑事としての葛藤の両方が現れているように思う。また、この取り調べの際の戸島の突然の激昂も印象的である。のほほんとした陽気で抑えていた怒りが爆発するというのは、否が応でも痛烈な思いを抱いてしまう。

 この時、佐織の遺族周辺だけでなく増村も殺人ほう助の線で出てきたのは少々驚いた。彼は15年前の少女行方不明事件の少女の母親の兄という突然の設定にポカーンとしたものの、まあ寝床を蓮沼に貸してる増村じゃないと確かに睡眠薬飲ませられんやろなあということで納得はできた。その妹は蓮沼の無罪を理由に自殺しているのだから、娘を喪った妹本人と同様に家族を喪った増村も蓮沼を恨んでいたのだ。被害者側にとってはもう15年前だからといって割り切れるわけではない。いや、一生かかっても割り切れるものではないと思う。だからこそ今回の件に関わったのだろう。関わったというよりか、発案者が増村なんだけどね。

 少し話が逸れるが、この物語は「私刑」について問うものでもあるなと思っている。「罰することによって傷つく人がいるとしたら、その傷ついた人は誰が救ってくれるんですか」「死を宣告できるのは司法だけと言うが、それをせずに釈放したのはあなた方ではないか」だいぶあやふやだが、こんな感じのセリフがあった。公的に罰することができないのならば、私的に罰するしかないという思いになり、その結果殺人に至ってしまったわけである。果たして何が正義であるかは決してたどり着けない命題であるが、少なくとも今の日本においては草薙のセリフの「どんな理由があれ、殺人は犯罪だ」が正義なのである。

 

殺害実行犯への追求

 その後、蓮沼殺害の実行犯として新倉が出頭することになる。最初の供述では、元々懲らしめるだけのつもりだったが半分事故のような形で殺してしまった、その時に蓮沼の口から自分が佐織を殺したという自白を受けたと言っていた。

 しかしその供述に違和感を覚えさらなる調査をしたところ、新倉には元から殺意があったのではないかという考えに至る。その糸口となったのが、新倉妻が佐織を殺害した(という妻の思い込み)ということと、それを蓮沼に利用されていたということであった。蓮沼を懲らしめる計画実行前にそれを妻本人の口から聞いたことにより、妻を守らなければと蓮沼を殺害したのである。先に述べたように、妻は佐織を気絶させたに過ぎず、殺したという思い込みを利用しようとした蓮沼が殺害の直接の犯人なのだが。佐織の気絶の直前の新倉妻との諍いの原因が、妻の佐織への嫉妬と夫が叶わなかった夢の佐織への投影にあったのは、なんとも悲痛な思いになる。こういうのフィクションでも現実でもたまによく見るよね。

 計画実行の際、新倉本人が蓮沼を殺せるように、本来の懲らしめ役であった並木祐太朗を意図的にトラブルに巻き込ませていた。そのために人を雇うとか、もう殺す気マンマンやんけ。この計画性の高さは裁判では逃げられないねえ。

 新倉に明確な殺意があったことの自白については、演出上彼は沈黙をしているが、最後に過失から殺人罪に切り替わったと説明されていることから、最終的には白状したのだろう。草薙の「蓮沼が佐織さんを殺したことを必ず立証してみせます」という言葉で、真実を白状すれば妻は救われる(少なくとも傷害罪で済む)のと、白状すれば自分には明確な殺意があったと言うことになるという両者で葛藤があったのは想像にかたくない。

 新倉以外の罪状(予定も含む)が最後明かされていったが、本来ならば懲らしめるで終わらせるつもりでいたし、新倉の殺意を関知してなかったのもあって、行っても殺人ほう助までだろうと説明されていた。刑法の基準全然知らないが、私もそこら辺が妥当なんじゃないかと思う。ただ、殺された少女への想いと蓮沼への憎しみが歪んだ結果、今回の事件が起こってしまったことについては十分是非を問う必要はあるだろう。前項の最後に述べている「私刑の正義性」についてである。

 

 

 

まとめ

 常任キャラの立ち位置とか全然覚えてなかったものの、単話完結の推理ものであるからさして問題ではなかった。そういうのを覚えていて得できることと言えば、節々のセリフで「あ~あの時のことを思い出してるのね~エモい~」ぐらいのものなので、大筋には関係ないのである。

 ストーリーはめちゃくちゃ面白かった。真相の明かし方が非常に分かりやすくかつ気持ちよかった。あくまで私の考えだが「面白い作品」というのは、「設定や内容自体の素晴らしさ」ではなく「新事実の提示が如何に効果的になされるか(提示の順番も)」「それ以前に提示されている設定や内容が如何に効果的に働くか」だと思っている。もちろん前者も蔑ろにしてはいけないが。これは私が伏線回収の気持ちよさを第一の物語の楽しみ方にしているから言えることで、違う目線で物語を楽しんでいる人にとってはまた違うのかもしれない。ただ、「面白い作品」を作るうえで重要なことの一つであるとは思っている。だからといって私が面白い作品を書ける自信も能力も1ミリもないのだが()

 真相にたどり着けたと思ったら「実はまだ明かされていない真実が~」ってなるのも、一回で二度美味しいみたいな感じで面白かった。そういうのが一つぐらいあるのは推理ものあるあるだが、それが何回かあったので一回で何度も美味しかった。ちょっとくどいぐらい繰り返してる感も若干あったけど。佐織が本当はどのタイミングで死んだのか?の真相については、その要素本当に必要か?と思ったが、まあ少しでもヤツが救われて後味を良くするためだったのなら仕方ないことなのかなと思うことにする。

 湯川の「さっぱりわからん」からの「実に面白い」の流れ相変わらず好きだなあ。純粋に未知を楽しんでる感ある。人死んでるからあんま楽しんじゃいけないのかもしれないけど、まあ彼刑事じゃないし大目に見てやれ内海。