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ぼちぼちいこか

グランド・ホテル 感想

 ゴールデンウイーク中日に当たる今日、「グランド・ホテル(原題:Grand Hotel)」をアマプラで観た。1932年のアメリカの映画。

 

 

 

あらすじ

 舞台はベルリンの高級ホテル「グランド・ホテル」で、そこに宿泊する客同士が知り合い、人間関係を深めていくという形で物語が進行していく。このように、特定の場所を舞台に、そこに集まる複数の登場人物の人間ドラマを並行して描く物語の手法は、この映画のタイトルからそのまま「グランド・ホテル形式」と呼ばれている。より一般的な用語で言うならば「群像劇」に相当する。

グランド・ホテル形式 - Wikipedia

 私がこの映画を観たいと思ったきっかけは、まさしくこの「グランド・ホテル形式」のもととなった作品を観ておかねば、と思ったからである。私は群像劇が好きだが、それならばその始まりを観ておくのはある意味必須であろう。*1

 この映画のあらすじを映画サイト等で見る場合は要注意。結構な頻度で最後のネタバレまで書かれている。

 

感想(後半ネタバレ有)

 まず端的に感想を言えば、十分に面白かった。これが群像劇の本来あるべき姿であるとさえ思えた。

 互いに枝のように絡み合う人間ドラマが、一つの幹に向かって強く収束していくわけではなく、枝は枝のままで程よく収束してこの作品は終わる。特定の絶対的な展開やテーマを求めれば物足りない終わり方とも言えるが、群像劇的である現実だってそんなものだろう。ある意味で、この作品はかなり現実的な物語なのである。私の求める群像劇とはまさにこのような「程よく絡み合うに過ぎない物語」である。絶対的な展開やテーマを求めるのであれば、それこそ絶対的な主人公を置いた物語にした方がいい。もちろん、群像劇でそれをしてはいけない、と言うわけではないが。

 

 ここからはネタバレを含んだ感想を書かせてもらおう。

 

 登場人物の一人に、経理として働いていたが、病気で余命宣告をされて残りの人生を贅沢に過ごそうとしている「クリンゲライン」という男性がいる。残りわずかの人生を大いに遊んでやろうという気持ちもあってか、多少調子に乗っているような感じもあるのだが、ちゃんと礼節もわきまえているので、憎めない男なのである。もうじき死ぬかもしれないおっちゃんとして見れば、むしろ可愛いとさえ思えてくる。

 その男性が勤めている会社の社長も同じくグランド・ホテルに泊まっていて、社長に虐げられている場面とか見たら、「報われてくれおっちゃん……」と思わずにはいられなかった。実際、最後には女性と一緒に次の旅行先に旅立ったし、なんとなく病気も良くなりそうな雰囲気だったので、報われて良かったな…(´;ω;`)とほっこりできた。この映画の中で一番好きな登場人物がクリンゲラインです。

 

 印象に残った登場人物はもう一人、バレリーナ「グルシンスカヤ」という女性もいる。彼女はとある男爵に愛を告げられ、それによってバレエの公演に対する元気をもらっていたのだが、遂にはそれが叶うことはなかった。その男爵は先に述べたクリンゲラインの社長に、半分過失的ではあるが殺されてしまったのである。最後までグルシンスカヤがその事実を知ることはなく、男爵は約束した旅行先で待っていると思い込んだままホテルを離れることになる。遅かれ早かれ、事件が公に報道されれば男爵の死を知ることにはなろうが。本当に不幸な女性である。クリンゲラインが報われた一方で、報われなかった女性もいたというのは、群像劇の「様々な人生」という本質をよく表しているなあと感じた。

 

 それにしても、社長はまじでクソである。社員を虐げるは人を殺してしまうわで最悪な野郎である。他にも良くないことはいくつかしてて、悪い大人の見本みたいな人物である。最後はその報いを受けたのでスッキリはしたけれど。

 

 この映画のテーマは、とある登場人物がその代弁者として物語の合間合間に語り掛けてくる。

「このホテルには様々な客が泊まりにきて、同じ場所で食事をし、酒を飲み、踊り、寝る。しかし隣の部屋の客の人柄さえ詳しくは分からない。そしてそのまま、客たちは次の場所へ旅立っていく。彼らは何処から来て、何処に向かうのか」

 多分に個人の解釈も入れたが、これはまさに、先ほど私が述べた群像劇の「程よく絡み合うに過ぎない物語」をホテルの話で置き換えたものである。群像劇の源流がどのような思想を持っていたのか、非常に勉強になった。

 

おわりに

 群像劇のほぼ始まりの作品ということで、非常に興味深く面白かった。軽めの群像劇を観たいという人にはおすすできる作品なのではないかな。1932年の映画ということもあって、世界大戦の話が第一次の方だけとか、当たり前のようにホテル内でタバコ吸いまくっているというのが、時代を感じてそこも興味深い作品であった。

 

 最後にとあるサイトの、この映画のあらすじの一文目を紹介して終わろう。

「ホテルはいわば人生の縮図である」

*1:厳密に言えばこの映画の前にすでに「グランド・ホテル形式」と呼べる作品はあったようなのだが